大判例

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釧路地方裁判所 昭和39年(ワ)266号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕原告が石井精一から本件約束手形の裏書譲渡を受けてその所持人となり釧路商工信用組合に取立委任のうえ満期に支払場所に支払のため呈示したが支払を拒絶されたこと、本件約束手形は真実被告の振出にかかるものではなく石井精一が被告の記名用ゴム印と印鑑を冒用して偽造したものであることは当事者間に争いがなく、証人石井精一の証言および原告代表者荒堀市郎の供述によれば石井精一は原告に対し昭和三九年七月三一日本件約束手形を真実被告振出にかかる約束手形であるとしてその割引を依頼し、その結果原告はこれを信じて同日日歩二五銭の割引手数料を徴して割引し金四八万七六三〇円を同人に交付したものであることが認められる。他方証人石井精一の証言および本件弁論の全趣旨によれば石井精一には全く支払能力がないことが明らかであるから、結局原告は石井精一の上記不法行為により前記割引による出捐額相当の損害を蒙つたことが認められる。この点原告は本件約束手形金と同額の損害を蒙つた旨主張するが右出捐額を越える部分は理由がない。

そこで被告が石井精一の使用者として原告に対し右の損害賠償の責に任ずべきかどうかを検討する。被告が造材業を営み昭和三二年頃から石井精一を雇傭していたが同人は昭和三八年末頃被告方を退職したことは当事者間に争いがなく、この事実と証人石井精一の証言および被告本人尋問の結果によれば次の事実が認められる。すなわち、被告は白糠郡音別町の自宅に事務所を構え釧路市居住の石井精一を雇傭していた間は当初同人を事務所に通勤させていたが昭和三八年春頃からは同人を釧路市に置いたまま給料を支払い用件発生の都度被告が釧路市に出向くなりあるいは電話で連絡をとるなどして同人に被告の事業に関する対外接渉をさせたり、銀行から手形貸付を受けあるいはその延期手形を差入れるなどの行為について被告の代行をさせていたもので、その場合の手形振出の方法は当初は同人に手形要件を記載させたうえ被告が記名捺印していたけれども後には被告の記名用ゴム印と実印とをその都度同人方に届けて振出人欄に記名捺印の代行をさせるようになり、同人としては特定の約束手形の振出事務が終了した後印鑑などを直ちに被告に返還するのが困難であつたため数日に亘つてこれを保管することが慣例となるに至つていた。そうして同人は昭和三八年末頃独立して営業を開始するため被告方を退職したけれども、被告よりその退職後も引続き前同様被告の手伝をするよう申入れを受けて同人もこれを承諾し、その後は給料の支払こそなかつたが前同様の事務処理を継続していた。本件約束手形は昭和三九年七月二日振出にかかるものであるが、これも上記のとおり石井精一が被告からその記名印と実印とを預り被告の事業上の用務の代行を行なつた機会に同人がたまたまその権限を冒用して被告に無断で被告名義で振出したうえ原告よりこれが割引を得たものである。以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右の事実によれば、本件約束手形の振出日当時被告は石井精一の使用者であり、石井による本件約束手形の振出および原告に対するその割引の依頼は被告の事業の執行につきなされたものと認められ、かつ、被告に選任監督上の過失がなかつたとは認められないから、結局被告は原告に対し前記損害の賠償義務を負うものと判断するのが相当である。(友納治夫)

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